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       Eietsu Tamura

      ENIACと同年齢の水瓶座。日本IBMに入社以来、原子力、自動車のCAE、21世紀になってライフサイエンスとHPCの主な活用分野に関係してきた。ただIBM SP1までは直接マシンに触ってきたものの、ここのところはThinkPadとiMac/iPhoneに触るのが関の山、もっぱら応援団に回っている。
      出身が核物理の実験屋なので雀100まで—気持ちはScientistのつもり。2008年末に日本IBMを卒業。
      シャロー・コンピューティング LLP, 代表パートナー、他 (現在)
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● 「京」の一般利用枠に225件もの応募

・10PFlops性能の「京」を含む HPCI共用計算資源の一般利用研究課題の公募を 5 月 9 日から 6 月 15 日まで行ったところ、全体で 259 件の応募があり、そのうち「京」については 225 件の応募があったことが、HPCIのホームページで発表されました。

・ それによると提供リソースの6倍以上のリソース要求に達したそうですから、まずはよい幸先だといえるでしょう。産業利用枠についても29件の応募があり、4倍以上のリソース要求とのことです。

・ 「京」のリソースの50%は戦略枠として文科省が5つの戦略分野に割り当てることになっていますが、こちらはこちらで厳しい競争が繰り広げられていると思われます。そして今回の「京」の一般利用枠には「京」のリソースの30% (産業利用枠がそのうち5%)が割り当てられます。一般利用枠の選考結果が示されるのは8月下旬頃ですが、選考方針や選考基準が明確になっていないと、この選考はかなり難しい作業のような気がします。

・ ところで米国でも10PFlops性能のBlue Watersスーパーコンピューターのマシンタイム配分作業がスポンサーの全米科学財団 (NSF)により進められています。

・ 「京」の戦略分野枠に対応しそうなのが、 Petascale Computing Resource Allocations (PRAC)というもので、大学の研究者が応募できNSFが評価選考します。現在30件が選考を通過しています。

・ この30件にはマシンタイムがプリ・アロケーションされていますが、Blue Watersが本稼働した段階で再度評価を受けて、最終的なマシンタイムの割り当てが決まります。Blue Watersのリソースがどの程度PRACに割り当てられるかは不明ですが、おそらく大半がPRACに割り当てられるのではないでしょうか。

産業利用については、Great Lakes Consortium for Petascale Computation (GLCPC)というコンソーシアムをBlue Watersプロジェクトを推進しているイリノイ大のNational Center for Supercomputing Applications (NCSA)が組織運営しています。また商用ソフトウェア(ISVソフト)についてはその中の ISV Application Scalability Forumが対応します。これらの産業利用にどれだけリソースを割り当てられるかは近々発表されるとのことです。

・ これを日本に例えれば、理研の計算科学研究機構がスーパーコンピューティング技術産業応用協議会を組織・運営するようなものです。

・ 全体的にBlue Watersの利用のしくみは責任分担が明瞭でわかりやすく、日本のHPCIの複雑なしくみに比べて簡潔で機動的な印象です。

・産業利用といえば、2012年6月のTOP500 LISTで「京」を抜いて一位になったセコイア (96ラック構成のIBM Blue Gene/Q)を所有する米国ローレンスリバモア国立研究所(LLNL)でも、新たに24ラック (5PFlops)のBlue Gene/QをHPCイノベーション・センター (HPCIC)に導入してIBMとパートナーシップを組み、米国産業界の競争力強化のために有料で提供するそうです。日本が「京」の産業利用をずっと強調していたのを真似たのかはわかりませんが、国防予算で運営されているLLNLと言えどもこうした取り組みが必要とされているようです。

・ これも日本に例えると、理研の計算科学研究機構が富士通とパートナーシップを組んで2.5PFlopsのPRIMEHPC FX10スーパーコンピューターを計算科学研究機構の敷地に導入して産業界のために有料提供するという、ちょっと想像しにくい絵になってしまいます。

・ この違いが日米(政府)間の科学戦略のダイナミズムの違いなのですが、たびたび言ってきたように米国はこれに加えて持続性が徹底しているという特徴があります。とは言え、次のExaFlopsへの挑戦は米国と言えどもASCI Programのときのように一筋縄ではいきません。

 

 

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今年も省電力の暑い夏が始まりつつありますが、自宅の今年5月までの年間省電力実績は前年同期の約55%減と、予想以上に省電力対策が効果をあげました。実行したのは待機電力カット、二重窓化による暖冷房対策、TV視聴の削減、電力使用のモニタリング程度だったのでびっくり。自宅でAV機器、IT機器をいっぱい使っている方は待機電力カットは効果があります。
しかしあのCO2削減25%という唐突宣言は、今いったいどこへ行ってしまったのでしょう。(持続性がないですね。)