●第一回インドHPCワークショップに出席

SC09の最終日になると、展示会がなくなることもあって参加者がめっきり少なくなります。しかし逆に主催者の知恵を働かせたユニークなミーティングがある可能性もあります。

そこで、日本にいてはわからないインドのHPC事情に興味をいだいて米国NSF、IBM, Cray, DellなどがスポンサーのインドHPCワークショップに終日参加しました。

インドの大学、国立研究所、企業の研究がいろいろ紹介されたわけですが、まず最初に感じたことは、やはりインドは頭脳流出国なのだということです。
IBM Researchを例にとるまでもなく、インド出身の研究者はアメリカで高い研究評価を得ていますが、それにくらべると地元の研究レベル、研究資金には大きな差があります。

もっともTata Groupの研究所であるCSLのように例外もあるので今後経済発展が続けば急速に発展しないとも限りません。
競争相手としては中国を意識しているようで、これはHPC分野に限られないのかもしれません。コーヒーブレークで一緒になったインド人研究者からは中国人として話しかけられました。

このワークショップではインドから将来を担う世代として学生を6人招待していましたが、NSF以外にも国防省(DOD)の研究機関がインドのように研究費が少ない大学、研究所に少額研究費を補助する制度があるそうです。どんな戦略なのでしょうか。

●中国からのSC09展示ブース

今日のアル ゴア前副大統領の講演は圧倒的な人気で、一時間半たっぷりの講演が終わるとほとんどが立ち上がって拍手をしてました。

彼のスピーチでは、このスーパーコンピュータ コミュニティが温暖化など世界が直面している課題に対し、最先端のスーパーコンピュータ技術による情報基盤への革命的な変革をおこなう責任があると話すなど、地球シミュレータでうけた日本の技術力への危機感から過去HPCCを推進した本人なだけに、スーパーコンピュータの貢献に大きく期待したものでした。

スピーチの中に1/4は海外からの参加者だという話がでましたが、今年は常連の日本だけでなく、ヨーロッパもFZJが大きなブースを出していました。

また、最近急速にTop500スーパーコンピュータリストのTOP10の常連をしめ、日本と置き換わった感のある中国は、中国科学アカデミーのICTがとても小さいブースを出しているだけでしたが、来年には曙光がPetaFLOPS性能になると話してました。早晩大きなブースを構えることになることでしょう。

●Cray award講演その他

水曜日は8:30からSC09の受賞式と講演が続きました。

Cray AwardはNIIの三浦先生が受賞、後藤英一先生の話から説き起こし富士通時代、そして次世代スバコンでの経験をわかりやすく展開しました。

その後、アプリケーションの受賞者のカーとパリネロがab initio MDのチャレンジと題した講演をしました。

ことしの講演会場の入りは例年の半分くらいで、やや盛り上がりが欠けた印象でした。

●Blue Waters用POWER7

こちらは、IBMのブースに展示のBLUE WATERSに使用されるPOWER7搭載サーバー。
水冷で、ぎっちりつまっていてかなり大きい。現行p575とは違うくらい改良が見られる。


ブロセッサーあたり8コア持ち、これがモジュールに4個(1TFLOPSモジュール)、このサーバー全体で256コアとなる。
写真に仕様が貼られてあるので興味のあるかたは、どうぞ。
(追加: 水曜のBlue Waters のBOFミーティングでは、ユーザー選抜は50k-200kコアを使って成果が出せるケースを優先すると言っていた。これからBlue Watersは200kコアの可能性が高い。そうするとピーク性能は、6.25PetaFLOPSになる勘定。2010末にシステムの主要部分が搬入され、本格的にユーザーが使えるのが、2011年後半とのこと。ソフトウェア開発についても後しばらく時間がかることが察しられるBOFでした。)


こちらはインターコネクト。ひかりを使う(1024コアでスーパーノードを構成し、スーパーノード同士を光接続、スーパーノード内は銅線接続)。富士通は、低電力可能な銅線。

スーパーコンピュータのトップレベルでは、こんな激しい技術競争をしているわけですから、これがわかっていれば、2位でもいいなどという甘い発想はとても出てきません。

SC09本番始まる

昨日までがTutrialで、今日からSC09本番が始まりました。オープニングの基調講演は、インテルのCTOがしましたが、宣伝色も目だたず良い講演だったと思います。


こちらは、富士通ブースの次世代スバコンと同一システムのラックの展示。
上が計算サーバー、その下が3Dトーラスinterconnectネットワークやローカルディスク(boot用)。このラックに低温水配管が組み込まれている。
たまたま一緒に見学した米国の技術者が、よくできた設計だと感心していました。

今日は何人かのアメリカ人からも次世代スバコンの状況を聞かれ、弱りました。文科省から意見募集がなされたのはSC09会場にも伝わっていますが、あらゆる方策を打つべきだと思います。

●富士通次世代スパコンが展示

11/16のSC09オープニングガラが終わって帰ってきたところですが、富士通のブースでは次世代スバコンの水冷ボードと中身が入ったラックが展示されていました (写真)。

またIBMではBlue Watersの水冷ノードが展示され、かなりの人だかりがしていました。
詳細についてはあとで。

Portland到着

朝の7時にオレゴン州Portlandに到着。路面電車が走っていて、並木も紅葉しすっかり秋です。風が強い。

オレゴンコンベンションセンターに歩いてレジストレーションをしてきましたが、小柳先生達の面々に道でばったり。

いまJSTでは早朝のせいか、体が慣れていないので、ひとまずこの辺で。

● この事業仕分け手法はアメリカ人には話せない

・目的が明瞭に予算カットで、それなのに権限が法的にはなにもないと言われる会議ならばもともとがナンセンスなわけですが、向学のためにInternetから次世代スーパーコンピューターの部分を覗いてみました。

・丁々発止の活発な討論をしているだろうと思いきや、なにか検事と被告のような受け答え、質問者も回答者も自分の立場を大きく勘違いしているのではないかというのが強く印象に残りました。それとガイダンスや必要な情報が事前に参加者間で共有されているようにも見えない不思議さ。

・質問者は予算カットの理由づけを探すためにステロタイプな質問、あるいはなぜ世界1が必要かと言った愚問(これでは戦略否定になる。温暖化対策の25%と同じでしょう)に終始したと私は受け取りました。あと驚いたのは、対象分野を知らない質問者に対して回答するための準備や練習が十分おこなわれたようには見受けられなかったこと。組織的に取り組んだ跡が感じられないのはいつのまにか官僚機構が弱体化してしまって、変化に対応できなくなっている証拠なのかもしれません。

(以下余談)
・わざと審査員側に担当部外者を集めた審査会議はいろいろな企業でやっていることでしょうが、私も日本IBM社員時代これで長年苦しめられた経験があります。最後には日本人よりも欧米人の審査員のほうが論理的で説得しやすいと感じたくらいでした。この種の対策として普通にやられている方法が質問者の性格・役割を決めて演じる仮想審査会でした。新入社員などはクリアするまで練習が1週間以上続き、厳しい想定質問にへこたれるというのが普通だったように記憶しています。

・まあ本来、外部環境⇔戦略 (人金物も含む)⇔組織、の三つどもえをうまく整合させるのがプロジェクトであれ企業活動であれ肝心な点だとマーケティング教育で学んだわけですが、それをあてはめると外部環境、戦略全体を知らないまま金の部分だけをピックアップして討論決定するのは異様です。

・もし法的にオーソライズされていない質問者が多数決でプロジェクトに致命的とも言える金額レベルの削減を1時間で決め、そのまままかり通るという手法が通ったとします。まさにアメリカのみならず世界の科学技術界の物笑いで、日本の大型科学技術プロジェクト遂行への信用は大きく失墜するでしょう。(アメリカ人から聞かれてもうまく説明できないし、話したくもないですね。来週がSC09ですから、日本の主な出展者にとってはワーストタイミングになってしまったに違いありません。)

・ふたを開けてみたら、次世代スーパーコンピューター競争の最大の敵は20PetaFLOPSを目指すIBMではなく実は自国政府でした、というのではしゃれにもなりません。個人的には、最後まで関係者のねばりを見せて欲しいところです。

・もう少し言うと、国の科学技術戦略を担当してきたオーソリティ(総合科学技術会議か)はこうした状況に対して当然ながら、きちんとなんらかの意思表示をする義務があると思います。と書いて総合科学技術会議のメンバーを調べたらトップが鳩山首相でした。

● データ・センター(DC) vs. スーパーコンピューター・センター(SC)

最近のCNET Newsでシカゴ近郊に完成したマイクロソフト社のシカゴ・データセンターが写真で紹介されています。

たいへん大きな施設で、しかもこれからまだ拡大していく予定ということですからシステム全体あるいは収容施設の規模としては、国家レベルで進めているスーパーコンピューターを超えるくらいのレベルになっているようです。

この種のデータセンターがLINPACKベンチマークをするのはまれですからTop500スーパーコンピューター・リストには掲載されないでしょうが、大規模センターの省エネや安定稼働への対策、あるいは並列処理などが不可欠という点においてはスーパーコンピューターと共通するものがあります。

ちなみに最先端技術で開発を進めている二つのスーパーコンピューター施設と並べてみるとマイクロソフト社のデータセンターは総額450億円を予定していることもあり、国家プロジェクトに勝るとも劣らない規模なことがわかります。こうした大規模データセンターはマイクロソフト以外にはGoogleのセンターがよく知られ、インテル、IBMなどについても見聞きします。後よく使うAmazonを忘れてはいけませんね。

NCSA Blue Waters (米国)
- 収容スペース: 8,175m**2
- 電力容量: 約25MW
- CPU Core: >200,000

次世代スーパーコンピューター(日本)
- 収容スペース: 10,500 m**2 (コンピューター棟)
- 電力容量: 不明
- CPU Core: >800,000 (LINPACK目標値からの推定)

●MSシカゴDC:
- 収容スペース: 4,459m**2 (現在。今後65,030m**2まで拡張)
- 電力容量: 約30MW(第1フェーズ時点)
- CPU Core: >806,400
(1,800~2,500サーバーがコンテナーに搭載され、56コンテナーあることからの推定値。サーバーには8コア搭載とした。実際には2階がコンテナー型ではない普通のサーバー・ルームのためコア数はもっと増える)

マイクロソフト、Googleとも冬寒く、電力と冷却水が安定供給できるところに立地しているのがなるほどと思わされます。マイクロソフトのデータセンターはミシガン湖のそばで水供給は問題なし、電力についてもその50%を原子力発電所が担っているイリノイ州にあります。日本だとさしづめ北海道や青森、秋田、岩手あたりが適地ということでしょうか。
中国やインドは安定供給という点からは、不向きに見えます。

● SC09まで3週間

・SC09まであと3週間ほどですが、予告編ビデオ(SC08で見せられたものと同じ?)を見ると開催地のオレゴン州Portlandは、たいへんきれいなところのようです。

・先日開催された「次世代スーパーコンピューティング・シンポジウム2009」のポスターセッションの優秀な内容で選ばれた今年の理研レポータがどんな報告をするのか楽しみです。

・賞と言えば、IEEE Computer SocietyがSeymour Cray AwardとFernbach Awardを10月15日に発表しています。2009 Seymour Cray Awardはご存知のとおりNIIの三浦謙一教授に決定ですが、2009 Fernbach Awardはab-initio 分子動力学シミュレーションに革命的な高速化をもたらしたCPMDコードの頭文字になっているCar教授とParrinello教授が受賞します。二人ともIBM Researchの研究者でしたので、だいぶ前に日本IBMが招待講演会をした記憶があります。

・さてSC09の目玉のひとつ、エグゼビションでは今年も国内企業からは、ベストシステムズ、富士通、日立、NEC、大学からは、筑波大計算科学センター、京大高等教育研究開発推進センター、同志社大、北大、北陸先端科技大 (JAIST)、関西大、九大、奈良先端科技大(NAIST)、埼玉工大、埼玉大、T2K Open Supercomputer Alliance、東大、東北大、東工大、研究機関からは、産総研(AIST)、GRAPEプロジェクト、ITBL、海洋研究開発機構 (JAMSTEC)、日本原子力研究開発機構 (JAEA)、宇宙航空研究開発機構 (JAXA)、国立情報学研究所 (NII)、情報通信研究機構 (NICT)、高度情報科学技術研究機構 (RIST)、理化学研究所 (RIKEN)の全部で28団体が参加登録しています。SC08より多少減ったようですが、それでもほぼ例年並みの参加数です。

・過去の例から推測すると、IBMはBlue Watersで使用するPOWER7プロセッサー搭載の水冷クラスター・システムを展示してもよいタイミングですし、富士通は国内外で次世代スーパーコンピューターに使用するSPARC64 VIIIfxチップをすでに発表展示していますから、もしかするとSC09では一段階つっこんだ展示を計画しているかのもしれません。

・とは言え、一番関心が集まる展示ブースはなんといってもFermiの発表をしたばかりのNVIDIAのブースでしょう。SC08ではTeslaを見るために初日大変混雑していました。二年続けて黒山の人だかりになるブースというのはなかなか見られないことです。